あいもかわらずお絵描き更新できなくてすみません。。
今描いてる絵のイメージでつくった小話で場つなぎさせて下さいね。
やまなしおちなしいみなしは801だけじゃないんだぜ!
【いいこと。】
ガシャーン!
夏休み明けの白選館高校の温室で、食器が割れる音が響き渡った。
「な…なんていったの、光?」
「だからな、滝島と海水浴行って、いいことしてきたんだ♪」
あくまでも朗らかな様子で明に答える光を見て、
「そ、そうなの、それはよかったわね…」
動揺を抑えつつそういった明はくるりと俺の方に向き直ると低い声で
「彗…アンタって男は、私が避暑で日本離れてるのをいいことに抜け駆けしたっていうのねー!!こんの猛獣ー!」
のセリフと何か重たげなものを投げつけ、宙に泣きついた。
「まあまあ、明。こいつらだってもういい大人なんだからさー。」
そんな明を慰めつつも宙はこっそりと俺に向かって
『やったなv』
といった目配せをしている。
毎度のことながら、誤解なんですけどね。
そう、俺と光は夏休みも終わりに近づいた頃、海水浴に出かけていた。
盆休みもろくになかった俺にとっては久しぶりのデートだった。
光の水着姿が眩しくて、目のやりどころに困るが、光を一人占めできるひとときは何
物にも変えがたい幸せな時間。
まあ、遠泳競争やビーチバレーで勝負も楽しいんですが、つい「ひと夏の経験」
というものを期待してしまうのは年頃の男子としては仕方の無いことだと思う。
俺達はセミの声が変わる頃まで海で散々遊んでいた。
そのうち大勢いた海水浴客もだんだんと減り、静かになった浜辺で遊び疲れた俺達は並んで座りこんだ。
「もうすぐ、夏も終わりなんだな…」
光はオレンジ色に染まりゆく海を眺めながらさびしそうにつぶやいた。
「また来年もこうやって遊べたらいいな」
「そうですね…」
なんだかいいムードになってきたと思った俺は、思い切って言ってみた。
「光、今年の夏の最後の思い出に一ついいこと…しませんか?」
「なんだ、いいことって?」
不思議そうに俺を見る光。
「たとえば…」
と俺が顔を近づけたとき、
「そうだ、これだ!」
と目の前に差し出されたのは一匹の子ガメ。
「は?」
俺は一瞬何のことだかわからなかった。
「いいことだ!」
得意そうな笑顔を見せる光。
「さっきな、地元の子供達にいじくられている子ガメを取り上げたんだが、海に帰す
のを忘れてたんだ。一緒にこの子ガメを海に送り出そう!」
「……」
そういう意味ではないのですが…。
と言おうと思ったが光の無邪気な可愛らしい笑顔を見て俺はその言葉を引っ込めた。
「…怪我はしてないようですね。」
目の前に出されたカメを眺め、今回もうまく(?)かわされてしまったことに少々がっかりしつつも、俺は光のいう「いいこと」に付き合うことにした。
バカバカしいながらもちょっと心配なことがあったから。
「ちょっとカメをかしてくれませんか?」
「? いいぞ。」
俺はカメを手にとると光に背を向け、聞こえないように
「いいですか?念のため言っておきますが、御礼には全っ然!及びませんからね。」
とカメに言い聞かせてから光に渡す。
うっかり恩返しに竜宮城に光を招待されでもしたら、次に会えるのはいつになることやら知れない。
「ほら、ちゃんとみんなの所に追いつくんだぞー!」
光もカメに話しかけながら、そっと海に放した。
光の小さな手を握りながらだんだん見えなくなる小さな姿を眺めつつ、
たまにはこういういいことだって悪くないなんて俺にしては殊勝なことを思っていたのだった。
まあ、しばらくは明には誤解させたままでもいいですよね。
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